佐藤優『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮文庫、2007)

書評

2年前に前立腺がんを公表してびっくりしましたが、今でも書評家として活躍されている佐藤優さんの著作です。『自壊する帝国』と並ぶ傑作です。いざというときの国家権力がどういうものか、知っておいて損はありません。お勧めです。文庫版初版から既に15年以上も経過しているのに、Amazonの公務員・官僚の売れ筋ランキングでトップ100に入っている本です。

厚労省の村木厚子さんが当然ながら無罪となった郵便不正事件にしても、この外務省の佐藤優さんがやむなく有罪判決を受けた背任事件にしても、検察がこうした国策捜査事件を作り上げる背後に、見えない権力の力が働いていることを感じざるを得ません。

諸外国と比較して、日本人は政府や大新聞を比較的信頼している方だと言われますが、この本を読めば必ずしも常に信頼できる相手方ではないということもよく理解できます。

本文記述で「排外主義的なナショナリズムに走ることは却って国益を毀損する。」とあります。この本の発行当時よりも周辺環境が悪化している現在、逆説的ながらこの考え方は尊重されるべきかもしれません。

東京拘置所での暮らしぶりに関する記述もなかなか面白いです。これまであまり意識してきませんでしたが、死刑執行は刑務所ではなく拘置所で執行されることを知り、頭の整理になりました。拘置所では、正月元日に紅白饅頭と重箱が配給されるそうであり、驚きです。

以下は本文記述で印象に残ったものです。
・「供述をしなくても私の有罪を確実にする仕掛けを作る能力が検察にはある。国家権力が本気になれば何でもできるのだ。」
・「弁護人は司法府の独立をほんとうに信じているようだが、私はまったく信じていない。」
・「今回の国策捜査が何故に必要とされたか、…(中略)何故に鈴木宗男氏が国策捜査の対象になったか、…(中略)排外主義的なナショナリズムに走ることは却って国益を毀損する、…(中略)一旦報道された内容は後で訂正されません。大多数の国民には、自己増殖した報道による私や鈴木氏に関する『巨悪のイメージ』と、その『巨悪』を捜査当局が十分に摘発しなかったことに対する憤りだけが残ります。」(最終陳述)

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