ジェフリー・フェファー(村井章子訳)『「権力」を握る人の法則』(日本経済新聞出版、2014年)

書評

会社員や公務員を問わず、組織で働く人、特に今後ふるいにかけられる20代後半から30代前半の人たちが読むのにふさわしい本です。

どんな仕組みで組織の上級職が誕生しているのか、答えは極めて世俗的です。世の中は公正・公平ではないのだから、いかに要領よく生きていくかが大事となります。公正・公平でないことに不満を抱きたくなるのも人間の自然な感情ですが、現実の世の中、特に会社生活においては、むしろいかに要領よく生きる必要があるかと割り切り、アピールなどをして目立つようにした方が組織の中にあっては権力を握りやすくなるということが説明されています。

イギリスの中央官庁で働く公務員を対象にした長期的研究で地位が低い人ほど、死亡率が高いことが分かったという報告が引用されています(p.18)。逆にすれば、地位が高い人ほど死亡率が低いということです。つまり、権力や地位があるほど長く健康に人生を楽しめる可能性が高い、ということです。その点で納得したのは、政治家、官僚、民間人を問わず、トップの地位を務めた人は、確かに長生きしていました。アメリカのカーター元大統領98歳(本日現在)、日本の中曽根元首相は101歳などですね。

研究報告として、小規模なベンチャー企業を対象とした調査で、「織内の権力分布と人間関係を正確に理解している人が最も大きな影響を持つ。」と結論付けた例が紹介されています(p.101)。この報告例には、自身の勤務先にもまさにこのような人物がいるので、とても腹落ちしています。まさに会社内の人間関係の情報収集のために、仕事はそこそこに、昼休みは昼食で、夕方は飲みで、絶えず社内の人間と話しています。そのようにして部署内の人間関係や個人情報までしっかり頭に入れています。それがいわば趣味のようなもので、生きがいなのでしょう。私の感覚からすれば軽蔑の対象ですが、先述の研究報告例に基づけば、私の場合は軽蔑だと思うこと自体が自分が社内に影響力を及ぼすことができないことの裏返しなのかもしれません。

「怒りを表現する人は『支配力がある、強い、能力が高い、頭がいい。』とみなされる傾向がある。」との研究報告例も紹介されています(p.191)。実験例として、特定の人を敢えて不利な場面に遭遇させるとき、その周囲の人々がその不利な場面に遭遇した本人がどのように反応するのかを予想させます。その結果、その特定の人が地位の高い人だと、その周囲の人々は彼(彼女)が怒ることを予想し、反対にその特定の人が地位の低い人だと、その周囲の人々は彼(彼女)が落胆することを予想した、とのことです。

この実験結果についても、自身の勤務先の日常から納得できるところがあります。「怒りを強く表現することができれば、相手を守勢に回らせることができる」(p.154)ことはあるかもしれませんが、現代日本の職場ではパワハラに直結する要素もありそうです。少しずれますが、上記の実験結果を証明させた実演例は、2011年の東日本大震災で福島原発が炉心溶融を起こしそうになって東京電力本店に乗り付け怒り心頭に行動したのが当時の民主党代表だった菅直人元首相でした。その行動が世間にどう映ったかは記憶のとおりです。

第9章のタイトルは、「不遇の時期を乗り越える」です。この章の中にとてもいい文章がありました(p.255)のでそのまま転記しておきます。これは、他人と共有することで悲しみを減らしましょう、ということですね。

失意や落胆を乗り越える最善の方法は、できるだけ多くの人に、できるだけすぐに、何が起きたのかを伝え、あなたの立場を説明して回ることである。すると、味方は思ったより多いことがきっとわかるだろう。あなたを責めるのではなく、支えになりたいという人が多いことにも、気づくだろう。それに、話せば話すほど、屈辱や失望など強い負の感情は起きなくなっていく。苦しい状況に対して免疫ができ、さほど辛くは感じなくなるからだ。

第12章で、「会社組織というものは、社員一人ひとりに気を配るようにはできていない。」(p.306)とあります。昭和の時代の終身雇用や年功序列が崩壊した現代、まさにこのとおりです。だから著者は社内で「生き残りを図るのは正当である」と説いています。

この本の要諦は、会社内でいかに権力のある人から気に入られ、引き上げてもらえるか、そのためには目立ってアピールする必要がある、ということになります。

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