なかなか面白かった。人気があるのも肯ける。欲を言えば、短編ではなく、もっと長編にしてほしかった。現実の検事の世界で、はたして、主人公、佐方貞人のような人物はいるだろうか。「本懐」という言葉の意味が響く小説であった。
柚月裕子という著者の本を読んだのは初めてだった。この著者について調べると、すごい人であることが分かった。まず、大学には行っておらず、21歳で結婚している、ということ。次に、平凡な人生を歩んできたわけではないこと。すなわち、父の離婚と再婚により、生母と義母それぞれと暮らし、本人が28歳のときに、ガンとなった生母と死別している。さらに、東日本大震災では、津波により父と義母を亡くしている。
司法の世界に身を置いた訳でもなさそうなのに、本書を著せるまでの知識や技量はどうやって身に付けたのかと不思議に思う。
「不遇な生い立ちが、罪を許される免罪符にはならない。生きていれば誰もが自分の運を嘆き、誰かを恨み、悔しさに泣き崩れるときがある。そのとき、自分がどうするか、自分は不幸だと嘆き、負の感情に流されていくのか。それとも、目の前に立ちはだかる理不尽という名の壁を直視し、立ち向かって乗り越えるのか。そこで、道が分かれる。」
上記の文章を読んだとき、著者の人生経験が豊富で、もしかすると自らの経験にも触れたうえでの表現ぶりかと感じられた。著者の来歴を知って、これだけの作品を執筆していることに触れ、勇気付けられるのであった。
ちなみに、この本が刊行されたのは2012年11月。厚生労働省の村木厚子さんが大阪地検特捜部の前田恒彦・元検事により濡れ衣を着せられたのは2009年。この冤罪事件のあったことが本著執筆に大なり小なりの影響を与えたことは想像される。
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