春江一也『プラハの春』(集英社文庫、2000年)

書評

チェコスロバキアについては、ほとんど知らない国だったが、この本を読み終えて、この国のことをよく知ることができるようになった。チェコスロバキアがワルシャワ条約機構という同じ同盟組織のソ連に軍事侵攻された史実に接し、ソ連という国家の本質の一面、つまりこの同盟組織の中心にして、他の参加国を絶対服従させるという横暴さを感じ取りった。

ワルシャワ条約機構構成国のうち、民主化運動が広がりつつあったチェコスロバキアへの軍事侵攻をもっとも強く主張したのは、東ドイツのウルビリヒトであったと述べられている。なぜ、ウルビリヒトは、隣国で広がりつつあった民主化運動が自国に波及するのをなぜそんなにも恐れたのか。何がそんなにまでウルブリヒトを共産主義・社会主義にこだわらせたのか。西ドイツと東ドイツに分断されて、西側自由資本主義陣営との差異を先鋭化させる必要に迫られて、共産主義・社会主義を徹底しようという国のトップとしての責任感に由来していたものなのなのか。

作中、ヒロインの次の言葉がある。

組織というものは構成員に対して従順を要求する。正論であれ体制にそぐわない意見を述べようとする者を排除する。硬直した官僚体制のもとで出世の要諦は、意見を言わないことであり、逆らわないことなのだ。そして言われたこと以外何もしないこと。

上記は、伝統的な会社組織においてもまったく同じである。組織のメンバーである限り、何もしないことが一番となる。同じようなことは、國重惇史『住友銀行秘史』(2016年、講談社)のエピローグにもほぼ同じように次に記されている。

もし、銀行で頭取になりたいのならどうすればよかったのか。それは何もしないことだ。減点主義の組織なのだから。

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