面白かった。半導体と世界情勢を結び付けて、さらに政治の話しも盛り込んでおり、読み飽きることはない。文章表現に新聞記者としての経歴が滲み出ている。
著者が言いたいことの一つは、米中対決により米国が中国に対して半導体関連の締め付けをすればするほど、短期には効果があるが、長期には中国自身が他国に依存せずに自前で技術開発を行い、力を付けることになるという指摘である。これはとても微妙な問題であろう。
なぜ、米中のみならず、世界の各国が半導体を巡って凌ぎを削るのか、これはいかに高い技術の半導体を有し、利用できるかが、一国の行方をも今となっては左右するまでに至っているからである。
その一例として紹介されているのが2020年9月に発生したアゼルバイジャンとアルメニアの紛争である。この紛争では、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンがアルメニアよりも高性能のドローンを飛ばすことができて、勝敗を決したとされている。
この本を読んで改めて思ったのは、シンガポールの要衝の意味である。インド洋から見て東洋の玄関口に当たるシンガポールは、マレー半島の先端に位置している。地理上、太平洋とインド洋を結ぶマラッカ海峡のところで幾重もの海底ケーブルが敷設されて太くなっている図を見ると、このシンガポールの地理的重要さがよく分かる。
また、シンガポールという国についての紹介も面白い。なんと、シンガポールの6割以上の人々が習近平政権を支持しているという。しかも、米国のバイデン政権よりも習近平政権の方に親近感を持っているという世論調査結果である。
シンガポール駐在経験のある著者によると、「米国、中国、日本などの大国の間を巧みに泳ぎ、独立国として中立を維持しながら、グローバリゼーションの恩恵を享受する外交努力の賜物」を手に入れた国である。したたかさという点で、宗主国であるイギリスの外交思想が通底しているのは間違いない。
本書を読んで買いたいと思った株式は、NTTと味の素の2銘柄である。まず、NTTについては、光電融合技術が注目される。半導体は電気で処理されるが、この技術は半導体を電気ではなく、光で処理する。この技術が実用化されれば、これまでの電気による処理に頼らざるを得なかった半導体について、爆発的・革命的効果をもたらし、GAFAで米国が独占しているデジタルの覇権を取り戻せる期待を寄せることができる。株価も一気に上昇するだろう。
次は味の素。株式銘柄は食料品に分類されるが、この本を読んで初めて知ったのは、味の素が半導体の素材として欠かせない絶縁体で世界シェアのほぼ100%うぃ握っているということである。2月24日終値で4,136円であるが、2020年6月のコロナ禍で1,792円の安値だったことがあり、今はその倍以上の株価である。その時に比べれば、今は高値圏にあるが下がってきたら買ってみたい。
冒頭の海底ケーブルの図の出所:Submarine Cable Map
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