國重惇史『住友銀行秘史』(講談社、2016年)

書評

著者の暗躍があってこそ、イトマン事件の規模がもっと大きくならずに済んだということは確かに言えるかもしれない。最後のエピローグにある次の一文が印象に残った。「もし、銀行で頭取になりたいのならどうすればよかったのか。それは何もしないことだ。減点主義の組織なのだから。」

自身の銀行でのキャリアを赤裸々に綴っている。これだけのページ数のものを書けたのも、メモ魔としてあらゆることを自分のノートに記録していたからそうである。

組織内にあって上昇志向が強く、MOF担をしていた頃にちょうどイトマン事件と重なり、自らの暗躍を綴っている。MOF担の職にあるということは、銀行首脳との接触が自然と多くなる分だけ、著者の出世欲を満たすやりがいにつながった。著者本人は、別媒体で、大蔵省からの情報取得のために、大蔵省官僚に女性を献上したことがあることを告白していたことがある。

華やかな銀行キャリアを送るとともに、私生活では自らも女性関係に積極的であった。銀行から移って就任していた楽天では、副会長職を拝命していたが、その女性関係が高じて裁判沙汰にもなったため、その職を追われている。それでも、実力が認められていたのか、今度は暗号資産取引などを手掛けるリミックスの社長をしていたことがあるのだから、サラリーマン生活としての待遇は恵まれたものを辿ったと言えるだろう。現在は年老いて気の毒なほどの状況になっている。

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